2017, 3月 星期五

SXSW 2017 視察レポート

Tomoki Pic

テキサス州オースティンで毎年開催される、テクノロジー・ミュージック・フィルムをテーマにした世界最大級のフェスティバル SXSW に、東京オフィスのCommunication Design Director 濱本が参加いたしました。濱本の視察レポート4件をご紹介します。

#1 デジタル・ディバイドは再び訪れる?

昨年のSXSWは、VR元年と言われるほどVRフィーバーだったそうです。しかし僕の見る限り、今年の最重要テーマのひとつとしてAI(人工知能)およびMachine Learning(機械学習)は外せないでしょう。そのくらい、SXSW2017ではこれらをテーマにしたセッションが数多く見られます。

テクノロジー業界にはAR、VR、MR、AI、IoTなどなど数多くのバズワードがあります。ともすると、われわれはこれらのバズワードを横並びで捉えてしまいがちです。しかし今回の視察を通して、AIの持つ影響力はその他とは比べものにならないインパクトがあることを感じさせられました。解釈が正しいかどうかという議論はさておき、たとえばARやVRという技術を「エンターテインメントコンテンツの可能性を広げてくれるツール」と捉える人は少なくないでしょう。とかく広告コミュニケーションに携わる人間はそうした理解をしがちです。しかし、残念ながらAIはそんなに扱いやすいツールではありません。明らかに他とはレイヤーの違う概念です。僕はエンジニアではありませんし、デジタルの専門家として飯を食っているわけでもありません。ただ、実際には多くの人々が僕と同じような立場だと思います。そんなテクノロジー初心者の僕が、SXSW初日を通して得たAIを取り巻く未来についての2つの気づきを本日は共有できればと思います。

1つ目の気づきは、近い将来、音声アシスタントが人々の行動やコミュニケーションストラクチャーを劇的に変えるだろうという点です。今われわれがビジネスの現場でAIの活用について語るとき、それはおそらくチャットボットの活用がメインになるのではないでしょうか。チャットボットの概念は、AI(人工知能)を活用することで、まるでリアルな人間とインタラクションしているかのような高度なテキストコミュニケーションを実現可能にすることです。しかし将来的には、その様相すら音声アシスタントの進化によって一変することになるかもしれません。パーソナルコンピューティングの時代のUI(ユーザーインターフェース)は、キーボードとマウスでした。そしてスマートフォン時代の訪れと共に、それはタッチスクリーンへと変わりました。ではIoTデバイス時代のUIは一体どうなるのでしょう?セルフドライビングカーのUIはいったいどんなものになるか想像してみてください。おそらくそれは音声アシスタントでしょう。Google、Apple、Amazonなど、主要なプラットフォーム企業による音声認識技術の覇権争いはすでに始まっています。これが何を意味するかというと、人々はもはや何か調べごとをするためにGoogleに検索ワードを打ち込まなくなるということです。そしてこの音声認識技術を成長させるテクノロジーこそがAIというわけです。つまりAIは、現在のデジタルマーケティングにおいて前提となっている人々の行動やコミュニケーションの基本構造を、根本的に覆す力を持っているということなのです。

2つ目は、AIを前提としたIoT時代はデジタル市場に新しいリーダーを創り出す強い可能性を秘めているということです。今われわれがデジタルマーケティングについて考えるとき、Googleの存在を無視することはできません。しかしCES 2017(Consumer Electronics Show)のレポートによると、業界をまたいだ様々なメーカーから、約700にも及ぶAmazon Alexaを搭載したIoTデバイスが発表されたそうです。これはAlexaがIoTのOS(オペレーティングシステム)として、競合他社に対して明らかなアドバンテージを示したということです。現時点ではまだ誰もその結果を予測することはできないでしょうけれども、IoT時代にはもしかしたらデジタルマーケットリーダーが変わってしまう可能性だってあるわけです。これってわれわれにとってものすごく影響のある話ですよね?少なくとも使われることで精度を高めていくという特性をAIが持つ限り、来たるべきIoTデバイスのOSとしてより多くのブランドから選ばれることが勝利への道というのは間違いないように思います。PC時代のWindows、そしてスマートフォン時代のAndroidとiOS。振り返ってみれば、OSを制するものがその時代を制する、と言っても過言ではありません。そして今、AIという技術を前提に、IoTデバイス時代に向けたOSを巡る熾烈な争いがまさに行われているということなのです。

正直僕は、次のデジタル・ディバイドがすぐそこにまで迫ってきているような危機感を感じました。それは現在のデジタルマーケティングの専門家ですら例外ではありません。マスメディア全盛の時代を生きてきた人々にとってスマホ時代の到来は驚異であり、非常に大きな混乱を生みました。これと同じような現象が今後再び起こりうるということです。しかもそれは、そんなに遠い未来の話でもないかもしれないのです。少なくともコミュニケーションビジネスに携わる人間は、こういったプラットフォーム企業の今後の動向を注意深くトラッキングしていく必要がありそうです。SXSW初日にしていきなりそんなことを痛感させられたのでした。

#2怒涛のアクセラレーターピッチ

SXSWは最新のテクノロジーやビジネスアイデアの見本市として知られていますが、中でもアクセラレーターピッチと呼ばれるイベントは、新進気鋭のテックスタートアップたちが2分間のエレベーターピッチを通してビジネスアイデアを競い合う、SXSWのひとつのハイライトと言っても過言ではありません。このピッチでは、以下にあげる5つの評価軸でジュリーたちが審査を行います。アイデアの良し悪しだけではなく、ビジネスモデルとして機能しうるかどうかを厳しく審査されているところに、当然なのですが広告業界のアワード賞との大きな違いを感じました。

1.     Creativity of Idea
2.     Business Potential
3.     Goodness of Product/Service
4.     Functionality
5.     Team

本日は2日間に渡って行われるアクセラレーターピッチの初日でした。朝から晩まで続く終日のイベントなので正直まだ消化しきれていないのですが、個人的に印象に残った幾つかのビジネスアイデアを早速ご紹介したいと思います。

SPLT / Transportation Technologies:
UBERを筆頭に、ライドシェアサービスはすでに日本でも広く認知されるまでに至っていますが、SPLTは会社の同僚との相乗りマッチングプラットフォームというちょっとユニークな発想を採っています。ストレスの多い毎日の通勤を、同じ会社の同僚と相乗りすることで、会社と社員の双方にとって様々なベネフィットをもたらすことができるという点を強調していました。たまたま同じ方向に行く得体の知れない人と相乗りするよりも、気心のしれた同僚や、通勤時間を使って朝活のような形で部門をまたいだ社員間の交流や教育を実現することを想定しているようで、たしかにただのライドシェアサービス以上の価値を生み出せそうな気がしました。彼らはSPLTを企業の福利厚生として利用してもらうことも視野に入れており、このサービスを自走させるためにUBERの競合であるLyftとすでにパートナー契約を結んでいるそうです。日本の通勤事情は周知の通りなので、日本でもこういったサービスが会社の福利厚生として利用されるようになればかなり嬉しいですよね。

ENVY / Social & Culture Technologies:
例えば、Instagramなどで誰かがポストした美味しそうな料理の写真を見て、思わず羨ましくなったり食べたくなることってあると思います。Envyのビジネスモデルは、一言で言うと「ビジュアルによる料理やカルチャーのサーチエンジン」とでも言うのでしょうか。彼らは、「ヒトの好み」の見つけ方を再定義するという強い信念と共に、それを実現するのは、ビジュアルという視覚的かつ直感的なものであると考えているようです。今はまだ食べ物、飲み物、髪型、タトゥー、そしてネイルというカテゴリーに限定されているようですが、これからカテゴリーは拡大していきたいとのことでした。たしかに今の世の中は、多くの人々が店舗情報のタグをつけてネットに様々なイケてる写真をアップする時代ですので、お店の情報がリンクされているこれらの写真をプラットフォーム化して、ビジュアルでお店を選べるようなマッチングプラットフォームがあれば、消費者にとっても店舗にとってもちょっと斬新かもしれないですよね。

DEEP 6 AI / Enterprise & Smart Data Technologies:
医療業界でもAI(人工知能)は、未来を変えるテクノロジーとして注目を集めているそうですが、ここで紹介するDEEP 6も、まさにAIを活用して医療業界の未来を変えようとするスタートアップです。ちょっと専門領域なので理解するのが難しかったのですが、かいつまんで言うと、膨大な人々のメディカルレコードを病院、製薬会社、そしてCRO(製薬会社が医薬品開発のために行う臨床開発を受託する機関)からDEEP 6が集約し、AIを使ってその大量のデータを分析することで、特定の患者さんのメディカルレコードからその人の病気の可能性を早期に発見することができるというものでした。早期発見というのは医療において何よりも大切なことだと思います。未来のテクノロジーであるAIに是非とも力を発揮してもらいたいところです。彼らはIBMのCTOをエグゼクティブチームに迎えており、おそらくIBMのAIテクノロジーを活用してこれらを実現しようとしているみたいです。

BLOOMLIFE / Health & Wearables Technologies:
最後にご紹介するのは、出産前の妊婦をサポートするBloomlifeというウェアラブルデバイスです。妊婦のお腹に装着することで子宮の動きを測定し、子供の成長に関するデータを記録してくれるそうです。Bluetoothを介してスマホと連動することでその様子を随時チェックすることができ、この情報をもとに、ドクターもなにか異変があればすぐに対応することができます。今後は定期検診の代わりにこのデータを医師にダイレクト送信するような仕組みを考えているそうで、将来的には医療費や妊婦の肉体的負担を軽減することにも貢献したいとのことでした。

#3 インタラクティブイノベーションアワード

進化するVR:
SXSWでは至るところで数々のスタートアップイベントが実施されていますが、アクセラレーターピッチと並んでS非常に注目度が高いのがインタラクティブイノベーションアワードです。

本日はそんなインタラクティブイノベーションアワードのファイナリストたちによるショーケースが開催されていたので、さっそく足を運んでみました。実際にデモをその場で体験できるため、言葉で説明されると一見とっつきにくいテクノロジーも非常にわかりやすく体感することができます。昨年はVR元年と言われるほどVRがホットトピックだったそうですが、その影響もあってかVR/AR関連のプロトタイプが非常に多いように感じました。なので、その辺りを中心にいくつか気になったものをご紹介したいと思います。

まず始めに紹介するのは OSSIC Xです。OSSIC Xは世界初の3Dオーディオスマートヘッドフォンだそうです。3Dオーディオと言われてもいまいちピンとこなかったのですが、デモを体験してみて納得しました。

360度の仮想現実空間で視覚的にユーザーに没入感を与えてくれるVRデバイスに対して、こちらは聴覚に360度の立体感を与えてくれるオーディオヘッドフォンです。現実の世界でも、距離や向いている方向によって当然音の聞こえ方は変わると思います。この3DヘッドフォンはVR空間の中でまさにそのリアルな音の聞こえ方を再現してくれます。視覚で没入させるVRと聴覚で没入させるヘッドフォンの組み合わせは、コンテンツ体験の奥行きをさらに押し広げてくれそうです。

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次にご紹介するのは、GoogleのTilt Brushです。今回初めて僕は生で見ることができました。Tilt Brushは、VRヘッドセットのHTC Viveを装着して360度のVR空間に自由自在に絵を描くことができるペインティングツールです。コントローラーがパレットと筆になり、色や線を変えながら仮想現実空間に絵を描いていきます。

子供の頃に想像した夢の世界がVRによって現実のものになった、そんな気がします。魔法使いになった気分です。やっぱりヒトの原体験を進化させて再現してくれるようなエンターテイメントコンテンツは、無条件にポジティブな感情を喚起してくれます。こちらは言葉で説明するよりも、実際に動画をご覧いただいたほうがイメージ沸きやすいと思います。

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次に紹介するのはVoxel Bayです。こちらは、子供たちが大嫌いな病院で、涙の代わりに笑顔を見せられるようにVRというテクノロジーを使っています。病院で泣いているわが子の姿を見るのは、親としてはとても胸が痛むものです。僕も娘がいるので、その気持ちが痛いほどわかります。このVoxel Bayは、注射や点滴を受ける際、その恐怖心から子供たちの注意をそらせるためにゲームコンテンツが綿密に計算されているそうです。僕も実際にやってみましたが、VR空間の中で自由自在に動きまわる動物たちを目で追いかけるゲームをしていると、そのVR特有の没入感のおかげでリアルな世界から気がそれてしまうというのがすごくよく理解できました。医療の現場等で実際にある問題をテクノロジーで解決するというのは、こういったテクノロジーが一部のテックギークだけでなく、広く世の中に受け入れられるためにも大切なことだと思います。そういう使われ方こそ、本来テクノロジーのあるべき姿なのかもしれませんね。

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最後にご紹介するのは、The Music Roomです。このThe Music Roomは仮想現実空間の中から現実のソフトウェア音源をならすことができるという代物です。VRの中にライブハウスがあって、その仮想空間で楽器を演奏すると、実際にリアルな音が生成されるという感じです。展示ブースでは、ヘッドセットを装着しながらコントローラーを持った男性が、何もない空間でひたすらドラムを叩いていたのですが、聞こえてくる音は完全に本格的なドラムサウンドでした。僕は音楽をやらないので細かなことはわかりませんが、実際に楽器を演奏する人々にとってはたまらないのでしょうね。ドラムに限らず、レーザーハープなど様々な楽器を演奏することができるそうです。いずれにしても、仮想現実空間の中で完結するのではなく、そこから現実の世界に逆アプローチするというところに、ものすごく新しさを感じさせられました。こちらも映像をご覧いただくとより理解していただきやすいと思います。

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#4 ビジネスクリエイションにおけるアドエージェンシーの光と影

優れたビジネスアイデアと、その他無数に存在するアイデアを隔てている決定的な違いはいったい何なのか?そしてアドエージェンシーのクリエイティビティは、ビジネスクリエイションというスケールでも機能しうるのか?今回初めてSXSWを視察するにあたって、個人的に最も関心を抱いていたのはこの問いでした。

どんなとんでもないアイデアと出会えるんだろう?それはもう期待に胸を膨らませながらオースティンへと出発しました。そして5日間のSXSW視察を終えた今、率直な感想を言うと、それは当初想像していたものとは少し違っていました。誤解を恐れずに言うと、アクセラレーターピッチのWinningアイデアですら「その手があったか!」と膝を打つような感覚を、僕は正直あまり持てなかったのです。

その理由を悶々と考えみたのですが、おそらくそれは広告コミュニケーションの世界で評価されるアイデアと、ビジネスとして評価されるアイデアの間には「アイデアの捉え方」に決定的な違いがあるからなのだと思います。

ここ2〜3年、日本のエージェンシーのいくつかは、自社開発した製品やサービスのプロトタイプを積極的にSXSWに出展する動きを見せています。これは、アドエージェンシーが広告に依存しない未来の新しい収益モデルを模索する試みであり、自らのクリエイティビティを拡張しようという大きなチャレンジでもあります。

そんなここ数年の間にアドエージェンシーがSXSWに出展してきたアイデアの数々と、今回SXSWで評価されたスタートアップアイデアを見比べていると、ふと感じることがあります。それはアドエージェンシーのアイデアの多くは、良くも悪くもやはりアドエージェンシーらしく見えるということです。非常にユニークでインパクトがある反面、どこか刹那的というか瞬間的なスパークのような読後感が残るのです。

昔、あるテレビ番組でブータンの首相が「幸せと喜びは違う」と言っていたのを思い出しました。たしか、喜びは刹那的なものだけど、幸せとはもっと継続的なものであるという内容だったと記憶しています。僕はこの喜びと幸せの違いのようなものを、アドエージェンシーのアイデアとSXSWで評価されるスタートアップビジネスとの間に感じたのです。

それは一体なぜなのか?僕はここに、われわれがビジネスクリエイションというフィールドで飛躍を遂げるための1つの大きなヒントが隠されているように感じました。そしてそれは、われわれアドエージェンシーが抱える2つの無意識の弊害によって引き起こされているのではないかと見ています。

1つ目は、キャンペーン思考という弊害です。SXSWはTwitterやAirbnb、Pinterestなど、今をときめく新興ビジネスたちが最初に日の目を浴びた場所としても知られています。そしてこうした優れたビジネスアイデアに共通しているのは、新しいWay of livingを創造しようとしているという点です。これらは一見して、ユーザーに継続的に続く “線”のような広がりを感じさせます。ビジネスにおけるイノベーションとは「人々の生活をより豊かに継続的に塗り替えること」によって実現されるものだと思います。iPhoneやAmazonダッシュボタンだってそうでした。その本質は昔も今も変わらないのではないでしょうか。

一方、われわれは長らくキャンペーンというフレームに縛られてきました。キャンペーンというのは限られた期間と予算の中で最大の効果をもたらすことが求められます。その意味でどうしても短期的な視点に立たざるをえません。このキャンペーン思考が脳とカラダに染み付いているがゆえに、ビジネスアイデアというフィールドにおいても、われわれは無意識に瞬間的なスパークを創り出そうとしてしまうのではないかと思うのです。

2つ目は、課題解決型コンテンツ思考という弊害です。優れたビジネスアイデアの多くは、非常にシンプルです。しかし、それがどう使われるのかという点においては余白があります。主導権はあくまでもユーザー自身にあり、製品やサービスは彼らのポテンシャルを拡張するための非常に便利なツールなのです。ユーザーに対して、ソリューションではなくインスピレーションを提供しているという言い方が正しいのかもしれません。例えばTwitterの提供するサービスは非常にシンプルですが、その使い方には無限の可能性があります。だからこそ多くのユーザーはこのサービスからインスピレーションを受けとるのです。この余白の部分が、サービスを継続的な体験へと変換するトリガーになっているのではないでしょうか。

一方でわれわれアドエージェンシーには、課題解決型コンテンツを追求する、ある種の癖があります。まず初めに課題を設定し、それを解決するソリューションとしてのコンテンツをアウトプットするのが一般的な流れです。決められた期間の中でクライアントから結果を求められるアドビジネスにおいては必然とも言えます。このアドビジネスにおける非常に重要なファクターが、製品やサービスを通したユーザー体験を“線”ではなく“点”にしてしまっているのではないかと思うのです。つまり製品やサービスというコンテンツを通して特定の課題を解決しようとするがあまり、逆にユーザー自身に余白を許さない状況を作り出しているのです。

先ほどアドエージェンシーのアイデアは良くも悪くもアドエージェンシーらしく見えると書きましたが、それはこれらの要因が大きく影響しているのかもしれません。そして同時にそれが、ビジネスアイデアに瞬間的/刹那的なスパークのような読後感を残してしまう理由でもあると思うのです。

前回の記事でも書きましたが、SXSWのアクセラレーターピッチでは5つの評価軸で審査が行われます。このうちCreativity of Ideaという指標では、僕は率直にエージェンシーの発想力・着眼点は優れたスタートアップをも凌ぐ力があると感じました。その反面、ビジネスクリエイションの世界ではビジネスの奥行き、広がりという意味でのBusiness Potentialが非常に重視されます。そしてその視点で見たときに、われわれエージェンシーにはまだまだ超えなければならない壁があるのかもしれません。

われわれが培ってきたクリエイティビティは、広告という領域を超えてもっともっと汎用的なものへと拡張できるはずです。今回の視察を通して、その思いはより強い確信に変わりました。しかしその一方で、本当の意味で革新的なビジネスアイデアをクリエイトするためには、無意識のレベルで脳とカラダに染み付いているアドエージェンシーならではの「癖」を拭い去る必要があることを、一人のアドマンとして自戒の念もこめて痛感しました。アドエージェンシーにとっての光と影、その両面を肌で感じることができたということだけでも、今回SXSWに参加した価値は十分にあったと思います。

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